12年~15年の周期で実施が必要な「マンション修繕計画」について、管理組合の皆さまはどのような悩みをお持ちでしょうか。
・修繕積立金の不足
・住民間の意見の不一致
・業者選定の難しさ
・費用の妥当性
・理事会メンバーの負担
など色々考えられますが、修繕計画含めたマンションの管理運営が管理会社に任せっきりになっていませんか?
今回はマンション修繕計画について東京都中央区の支援制度を中心にお伝えしたいと思います。

カノーゲル行政書士・社会保険労務士事務所
代表 行政書士・社会保険労務士
大谷 真美
松戸、虎ノ門、麻布十番の弁護士・行政書士事務所で合計15年勤務後
2020年9月に独立、補助金申請に特化したカノーゲル行政書士事務所開設
2023年11月、カノーゲル社会保険労務士事務所開設
これまで補助金・助成金をサポートした会社は300社以上
専門家のアドバイスが無料で受けられる制度「分譲マンションアドバイザー制度利用助成」とは?

2025年1月、ある管理会社の元社員が、マンション管理組合の修繕積立金約4,700万円を着服したとして、業務上横領容疑で逮捕されたニュースは記憶に新しいところです。元社員は、9年間で計14の管理組合の口座から9億円超を着服していました。
最近は着服事件だけではなく、大規模修繕工事に関する談合疑惑があるとのことで、2025年3~4月、公正取引委員会が、大手ゼネコン子会社など30社超に、独占禁止法違反の疑いで立ち入り検査を行いました。
このように、億単位で積み上がる資金が狙われるケースは後を絶ちません。しかし、専門知識やノウハウを持たない管理組合が不正を見抜くのは、非常に難しいことです。不正までいかなくても、管理会社が出してきた修繕計画や費用が適正なのか、判断に困ることも多いと思われます。 第三者の立場からプロのアドバイスが欲しい、ただどこに頼めばいいのか、費用はどのくらいかかるのか分からない・・そんな時、東京都中央区には、管理組合が利用できる「分譲マンションアドバイザー制度利用助成」という制度があります。中央区の手厚いサポートを活用して、マンションの資産価値を高める組合運営・修繕に取り組んでいきましょう。
参照:一般財団法人中央区都市整備公社ホームページ「分譲マンションアドバイザー制度利用助成」
制度の仕組み|東京都と中央区による二段構えの支援

1、制度概要
中央区では、管理組合の円滑な運営や建替え・大規模修繕の検討を支援するため、専門家(アドバイザー)による訪問の際にかかる費用の助成を行っています。これは「分譲マンションアドバイザー制度利用助成」と呼ばれ、中央区の一般財団法人中央区都市整備公社(以下、「公社」と呼びます)を通じて費用助成されています。そもそものアドバイザー制度は東京都の公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンター(以下、「センター」と呼びます)が行っていますので、東京都の制度を利用すると中央区が費用助成する、という立て付けです。
参照:公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンター「マンションアドバイザー 制度」
2、制度の違い
この制度は大きく2つに分かれています。
①マンション管理アドバイザー制度
②マンション建替え・改修アドバイザー制度
この違いは、①は築年数に関わらず組合運営全般にアドバイスが欲しい管理組合、②は築年数を重ね建替えか改修かという問題に直面している管理組合が対象となる点です。通常の修繕計画でしたら①の対象です。来て頂くアドバイザーも、①はマンション管理士、②は1級建築士(マンション管理士の資格を持っている方も多い)、という違いもあります。
3、「マンション管理アドバイザー制度」
「マンション管理アドバイザー制度」には3つのコースがあります。
Aコース:講座編(計画修繕工事の進め方、滞納管理費や修繕積立金督促の仕方など)
Bコース:相談編(修繕計画の作成や修繕工事積立金の設定、修繕工事検討段階での相談など)
Cコース:支援編(修繕積立金の設定案、長期修繕計画見直し案など)
コースによって相談できることは異なります。Aコースはテキストを使った1回あたり2時間のアドバイス、Bコースは管理組合が提出した資料を元に個別具体的なアドバイス、CコースはBコースより踏み込んだ長期修繕計画や修繕積立金の見直し案の作成まで対応頂けます。
4、「マンション建替え・改修アドバイザー制度」
「マンション建替え・改修アドバイザー制度」には2つのコースがあります。
Aコース:入門編(老朽度判定、建替えと修繕の費用対効果の説明など)
Bコース:検討書作成(建替え計画案、改修計画案の作成など)
①と同様に、Aコースはテキストを使った1回あたり2時間のアドバイスですが、Bコースは建替えか改修かの比較検討ができるように、マンションの現況や法規制に関する確認を行い、検討書として簡易な平面図や立面図、費用概算表など参考となる資料を作成して説明頂けます。
5、中央区の助成内容
対象は、区内に所在する分譲マンションの管理組合です。①②どちらも中央区を通して申し込むと、費用の全額が助成されます。この制度の利用で費用助成を行っている区・市は他にもありますが、2分の1や3分の2などの補助率や利用回数の制限をかける自治体も多いので、全額助成は大きなメリットです。
マンション管理アドバイザー制度
Aコース(16,500円)→Bコース(25,300円~50,600円)→Cコース(25,300円~357,500円)と、価格は上がりますが、今のところ中央区の助成はAコースとBコースまでで、1管理組合につき同一年度内に各1回、つまり毎年度利用することも制度上は可能です。Cコースの適用は検討中とのことなので、今後の適用拡大に期待しましょう。
マンション建替え・改修アドバイザー制度
Aコース(16,500円)→Bコース(25,300円~588,500円)と、特にBコースはかなり高額です。今のところ中央区はAコースとBコースどちらも助成していますが、1管理組合につき各1回のみです。かつ、Bコースで助成されるためには「概ね築30年以上経過」という条件がプラスされます。
※公社を経由せず直接センターへ申し込んだ場合は、アドバイザー制度利用助成を受けられない場合があります。
※テキスト代は助成対象外です。
※アドバイザーの申込みを撤回したときは、時期に応じて違約金がかかりますので注意してください。なお、違約金は、申請者の負担となります。
6、制度利用の流れ
管理組合、公社、センターという3者が関わりますので丁寧に見ていきましょう。センターがアドバイザーの派遣業務、公社は費用助成と認識しておいたら問題ございません。
管理組合がまず、中央区の公社に申し込み
→公社がセンターにアドバイザーの派遣依頼をし、センターはアドバイザーを選定
→管理組合は派遣料振込み、資料送付
→センターがアドバイザーを決定
→公社が助成決定
→センターがアドバイザー派遣、訪問・説明
→管理組合が公社に助成金請求
→公社が口座振込
7、利用のモデルケース
マンション管理アドバイザー制度
まずは管理組合の委託や契約について学んだあと、具体的な計画修繕工事について個別具体的なアドバイスを頂く、という感じで各コースを毎年受講することができます。

マンション建替え・改修アドバイザー制度
実際に建替えか改修か検討しなくてはならない時期にきたら、AコースBコース各1回ずつ助成が受けられます。

8、制度利用のメリット
本制度を利用するにあたり、次のようなメリットがあります。
専門家による的確なアドバイス
実務経験豊富なマンション管理士、一級建築士など外部の中立的立場から管理規約や修繕積立金、委託契約など幅広く助言してもらうことで、早期の問題発見から将来の重大トラブルを防ぐことに繋がります。
住民間の合意形成のきっかけ
管理の基礎から実践まで住民向けの講座形式でわかりやすく、住民自身が学び知識を身につけることで、管理組合内の対立や疑念を和らげ、大規模修繕や改修・建替えといった大事な選択に向けての合意形成がしやすくなります。
東京都が実施している安心感
専門家に相談したくても、誰に頼んだら良いのか、費用の検討も付かないといった不安から一歩踏み出せない時でも、東京都が選んだ専門家がアドバイザーであること、費用もあらかじめ明記されていて、さらに中央区の助成制度により無料で利用できることから、依頼のハードルはかなり下がります。
9、制度利用のデメリット
一方、この制度を利用するデメリットは下記が考えられます。
継続的な支援ではない
単発の訪問や講座が中心のため、管理トラブルの仲裁や法的対応、裁判など問題の根が深い場合は対応しきれないケースもあります。また、作成された図面は参考程度のものなので、実際の建替え・改修図面の作成は別途専門家に依頼する必要があります。
時間がかかる
東京都と中央区が制度に絡んでいるため、申込書が双方に必要であったり、申込書提出~承認まで数週間かかるなど、急な問題には即応できません。
アドバイザーを選ぶことはできない
センターがアドバイザーを選定するため、管理組合側が任意のアドバイザーを選ぶことはできません。
まとめ
本制度を図にまとめるとこのようになります。

参照:公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンター「マンションアドバイザーのご案内パンフレット」
参照:一般財団法人中央区都市整備公社ホームページ「分譲マンションアドバイザー制度利用助成」
分譲マンションを長く良好に維持するには、中長期的な視点での計画が不可欠です。このマンションアドバイザー制度は、「今すぐ建替えや修繕を行うため」ではなく、「将来の備えとして情報と判断材料を集めるため」に活用するのがおすすめです。
専門家の知見と区の支援を無料で活用できる貴重なチャンスです。デメリットも理解した上で、ぜひ管理組合の会議議題に取り上げ、住民の皆さまの合意形成や資金計画、修繕計画に役立てていきましょう。
本記事は2025年7月時点の情報に基づいています。 最新の制度内容や申請手続きについては、一般財団法人中央区都市整備公社のホームページをご確認下さい。