皆さまは、ご自宅の屋根や外壁を定期的にチェックされていますか?
特に屋根は、建物の「いちばん過酷な場所」にあります。強い紫外線、雨風、暑さ寒さ、砂ぼこり、台風時の横なぐりの雨など、これらが24時間365日、少しずつ素材を傷めていきます。
塗装や改修は見た目を整えるためだけではありません。下地や構造を守り、暮らしの快適さや資産価値を長く保つための「予防整備」です。
今回はそんな屋根や外壁の改修に使える、東京23区の助成金をご紹介していきます。

カノーゲル行政書士・社会保険労務士事務所
代表 行政書士・社会保険労務士
大谷 真美
松戸、虎ノ門、麻布十番の弁護士・行政書士事務所で合計15年勤務後
2020年9月に独立、補助金申請に特化したカノーゲル行政書士事務所開設
2023年11月、カノーゲル社会保険労務士事務所開設
これまで補助金・助成金をサポートした会社は300社以上
区ごとに違う補助金対象について

屋根の塗装・改修は、工事の質と費用負担のバランスが肝心ですが、東京23区には、ヒートアイランド対策や省エネ推進の一環として、高反射(遮熱)塗料の屋根塗装や屋上・外壁の改修に使える助成制度が複数あります。
ただし、区ごとに中身がかなり違うのが実情です。
「面積単価方式(例:2,000円/㎡)」の区もあれば、
「工事費の◯%(定率)」や「材料費のみ」を対象とする区、
「着工前の申請が必須」の区、
「外壁は対象外(屋根・屋上のみ)」という区など様々です。
同じ200㎡の屋根でも、区によって自己負担が数十万円変わることも珍しくありません。そこで、各区の特徴と、制度の「型」「注意点」などをまとめました。最後に各区の公式URLも記載しています。住宅の価値を長く保つための改修を、本助成金を活用してお得に実施して頂きたいと思います。
助成制度の全体像

①申請のタイミング
基本的には、着工前に申請して、審査、交付決定を経て工事へと進みます。
工事の2週間前まで、1か月前までなど、申請期限は明確に決まっています。一部の区では工事完了後に申請可のケースもありますが、この順序を間違えると対象外になるため、まずは全体のスケジュールを丁寧に確認しましょう。
・着工前申請型(江東区、台東区、千代田区、港区など)
交付決定通知前に工事すると対象外のため、見積・図面・面積算出表、第三者機関の性能証明(高反射率)が早期に必要です。
・完了後申請型(新宿区など)
施工・支払い完了後に申請します。完了写真が必須のメニューがあり、足場解体前の撮影・構図の指示が大事です。
・管理組合の意思決定型
港区の管理組合が申請する場合、管理組合総会の議事録(塗装実施・助成申請の議決)が必要なため、管理会社との段取りを見積段階で完了させましょう。
②対象者
個人の持ち家、分譲マンションの管理組合、店舗・事務所などの事業者など、細かく設定されています。
対象者によって上限が異なる場合も多いため、ご自身がどのカテゴリーに属し、制度の対象になっているかどうかチェックして下さい。
③対象工事
助成金の対象は、「屋根・屋上の高反射(遮熱)塗装」が中心です。
その理由は、省エネ効果が確実に積み上がる助成制度との親和性にあると考えます。多くの区の助成制度はヒートアイランドや省エネ対策を目的としており、高反射(遮熱)塗料は太陽光、とくに熱に効く近赤外域を跳ね返すので、屋根表面温度の上がり方を抑え、上階の体感や空調負荷の軽減に直結、冷房の効きが安定し夏季の電力ピークを削減、地域全体のヒートアイランド緩和にも寄与します。
よって、ただの外観の劣化のため、という理由での改修だと対象工事に該当しないことがほとんどです。外壁工事は区によって可、または対象外のこともあります。
・外壁も可
千代田区(屋上・壁面)
杉並区(屋根・外壁の遮熱・断熱塗装)
・外壁は対象外
台東区・江東区は屋根・屋上のみが対象(外壁は除外)。見積内訳を屋根分と外壁分で分ける運用が良い。
④助成率、上限
助成制度は、かかった経費全額出るということは、ほぼありません。
面積単価あたりの助成率があったり、材料費のみであったり、上限があったりします。どの方式かで、実際の負担額が変わりますので、確認が必要です。
⑤よくある必須書類
多くの必要書類がありますが、共通して求められるのは次の書類です。
工事会社が用意するものが多いので、上手に連携して書類を集めましょう。
・見積書(塗料の品名や色番号、仕様が分かるもの)
・図面、面積算出表
・施工前後の写真(足場を外す前に「完了写真」を撮るのが安全)
・高反射(近赤外)など性能の分かる資料 etc
港区などは、日射反射率(近赤外域)の第三者証明まで要求されています。区指定の対象塗料リストなら省略可ですが、仕様書・色番号まで見積に明記しなければなりません。必要な情報は細かく確認するようにして下さい。
各区の比較表
東京23区は、助成の方式・上限・対象者・申請の順番が区ごとに異なります。
いくつかの区をまとめた下記の比較表(令和7年10月現在)では、自己負担の目安や申請時の注意点を一目で確認できます。「自分の区で使えるかどうか?」を判断し、失敗しない屋根・外壁工事に役立てて下さい。
| 区名 | 制度名 | 対象工事 | 助成率・上限額 | 対象者条件 | 各区の詳しい特徴 | URL |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 中央区 | 自然エネルギー・省エネルギー機器等導入費助成 | (年度により)屋根・屋上の高反射率塗料等をメニュー化 | 助成率・上限は年度要項で規定、事前申請(導入約2週間前目安) | 住宅・共同住宅(管理組合含むメニューあり)。事業所用は別枠 | 交付決定後着工。年度ごとに対象機器・書類が更新される。 ※R7受付終了 | https://www.city.chuo.lg.jp/a0036/machizukuri/bika/taisaku/kikijosei/ecojosei_jutaku.html |
| 千代田区 | ヒートアイランド対策助成 | 屋上・壁面の高反射率塗料等 | 対象経費の50% または 2,000円/㎡(小さい方)、上限50万円 | 建築物所有者(個人・法人)、管理組合等、事前申請 | 屋上・壁面が対象。近赤外日射反射率50%以上など性能要件が明確。 ※R7受付終了している経費あり | https://www.city.chiyoda.lg.jp/koho/machizukuri/kankyo/hojo/heat-island.html |
| 新宿区 | 省エネルギー・創エネルギー機器等補助 | 屋根・屋上の高反射率塗装 | 2,000円/㎡、上限20万円 | 住宅・共同住宅・事業所で区分、管理組合可 | JIS K5675または近赤外50%以上、居室上の屋根・屋上が対象など仕様が詳細。 | https://www.city.shinjuku.lg.jp/seikatsu/shoenergy.html |
| 港区 | 高反射率塗料等 | 屋上・屋根(外壁は対象外) | 材料費の全額 又は 2,000円/㎡(小さい方)。上限:区民30万円、管理組合・中小企業者100万円。事前申請 | 区民・管理組合・中小企業者・個人事業者等 | 新築に伴う申請も可。面積定義や書類要件が細かい(面積は平面図基準等)。 | https://www.city.minato.tokyo.jp/chikyukankyou/kankyo-machi/kankyo/hojo/toryo.html |
| 江東区 | 地球温暖化防止設備導入助成(個人・集合) | 高反射率塗装(屋根・屋上、年度で外壁可否の変動あり) | 1,000円/㎡、上限20万円 | 個人・事業者・管理組合等、着工前申請 | JIS K5675の規格など第三者機関の証明書やカタログで要件確認 | https://www.city.koto.lg.jp/380201/machizukuri/kankyo/sedo/30jyosei.html |
| 墨田区 | 地球温暖化防止設備導入助成制度 | 遮熱・高反射率塗装(屋根・壁)等 | 個人は工事費用の10%が上限 | 個人・事業者・管理組合等、着工前申請 | 工事前後写真や図面の整合確認が厳格。併用可否・申請回数のルールあり。 | https://www.city.sumida.lg.jp/kurashi/kankyou_hozen/jyoseikin/ecojyoseiseido.html |
| 世田谷区 | エコ住宅補助金 | 屋根の高反射改修、外壁改修 | 屋根は10万、外壁は3万が上限 | 個人(法人は対象外) | R7受付終了。毎年度の改定・受付期間に注意。 | https://www.city.setagaya.lg.jp/02240/4777.html |
| 葛飾区 | かつしかエコ助成金(個人・集合・事業所) | 高反射率塗装(屋根・壁) | 屋根か壁は5万、両方は10万が上限 | 個人住宅、管理組合、事業所でメニュー分離、事前申請 | 面積単価方式があり積算しやすい。メニューが細分化されている。 | 個人https://www.city.katsushika.lg.jp/kurashi/1000062/1023018/1035385/1036257/1036374.html |
| 足立区 | 省エネリフォーム補助金(事前申請) | 遮熱塗装(屋根・外壁等)ほか | 工事費の1/3、上限5万円(年度要項) | 区内居住・自住の個人/遮熱塗装は戸建限定/区内業者必須 | 「足場設置=着工」扱い等の運用が明確。申請は着工5開庁日前まで。 | https://www.city.adachi.tokyo.jp/kankyo/kurashi/kankyo/syouenesetubi.html |
他の区については、区のホームページのリンクをまとめました(令和7年10月現在)。それぞれ最新ページをご確認ください。制度の有無や名称、対象範囲は年度ごとに変わります。
区の助成金申請のコツ

自治体(特に「区」レベル)での屋根・外壁の塗装・改修工事助成制度は、予算・申請枠が限られていたり、人気が高かったりして「募集締切」になっていることが多いです。
実際、このコラム執筆段階(令和7年度10月)でも、中央区、世田谷区、北区、練馬区などは予算消化で受付終了となっていました。ですが、準備や申請の仕方次第で通る確率をぐっと上げることができます。以下に「申請のコツ」を整理しておきます。お住まいの区によって制度の細部が変わるので、事前に区役所の最新情報をチェックすることが前提です。
まず、制度側の制約を知っておくと、「何で落ちたか」の見当がつきやすくなります。多くの制度で共通しやすい制約は以下です。
・申請期限、募集枠オーバー → 予算枠が終了している、先着順で締切、抽選に落ちる。
・工事開始後に申請 → 多くの制度では着工後申請だと対象除外になる。
・仕様を満たしていない塗料や材料を使う → 見た目上は同じでも反射率・性能基準を満たしていないと対象外。
・書類不備や添付漏れ → 写真や図面、承諾書、税金関係書類など漏れると却下。
・業者が補助制度を理解していない → 見積が通常仕様・非助成対象仕様。
・完了報告の遅延や未提出 → 助成金支給が遅れるか、最悪の場合支給されない。
これらを念頭において、「抜け穴」を防ぎながら準備をすると成功率が上がります。申請を通しやすくするための具体的なコツはこちらです。
①早めに情報をキャッチする
最も重要なポイントです。区の予算編成の標準的スケジュールは、自治体の会計年度(4月~翌年3月)に基づきこのような流れになっています。
6~10月頃 各課が翌年度の事業要求を内部で検討
11~12月頃 財政課による査定、区長査定
1~2月頃 来年度予算案の作成・議会提出
3月 区議会で審議・可決
こうして、4月~翌年3月の会計年度予算が決まります。そしてほとんどは、4月にその年度の制度が発表されることになります。つまり毎年4月、区の広報誌、区のウェブサイト「建築・住宅・環境」部門などをこまめにチェックしてください。予算枠には限りがあり申請の早い順に審査が始まるため、募集開始日すぐに申請できるよう余裕をもって準備しましょう。
②スケジュール管理を徹底する
申請→承認→着工→完了報告→支給という流れを逆算してスケジュールを組みます。
この順序を間違えると助成対象外です。会計年度に沿って、3月末までに工事・支払・完了報告を済ます必要があるため、その期限は必ず守って下さい。屋外での工事になるため、工期・天候のずれを見込んで余裕を持った日程を確保することも重要です。
③仕様・性能条件をあらかじめ確認する
4月に申請するためには、出来れば前年度の募集要項で、事前に仕様・性能を把握しておきます(助成制度が続くなら、基本的に前年度の内容を踏襲します。ただ、一部変更などはあり得るため、今年度の案内が出たら改めて確認するようにして下さい)。
見積を依頼する際には、工事業者に「助成対象仕様で」と募集要項を明示して依頼します。屋根のみ、外壁のみなど区によって対象工事は違うため、見積明細を細かくしてもらうことも必要です(材料費・工事費・付帯工事など内訳が分かれたものだと助成対象経費が明確になり、差戻しが減ります)。
④工事業者の選定は戦略的に
問合せの際に、これまでの助成金活用実績を確認して、助成制度に通じている事業者を選ぶようにしましょう。
中には手間暇かかる助成金利用を嫌がる事業者もいます。助成金を扱った実績がある事業者なら、仕様や申請書類の対応に慣れているため、採択の確立は格段にアップします。
また、複数見積もりを取って比較することも効果的です。助成対象仕様での見積もりを複数とることで、価格と仕様の整合性や、助成金対応が可能かどうか見極めることが出来ます。
⑤申請書類を正確・丁寧に整える
規定の申請書(様式)を正しく記入し、添付書類(工事見積書、材料仕様書、配置図、建物写真、所有者承諾書、税金納付証明など)を漏れなく揃えます。書類不備や記載誤りで審査がストップし、採択を逃すケースも多いため、区担当者へ事前相談して書き方や添付例を確認し、「これで要件を満たすかどうか」相談できれば安心です。普段見慣れない書類も多いと思うので、自分では難しいと感じたら、行政手続きの専門家である行政書士に依頼するのも一つの方法です。
まとめ
屋根・外壁の塗装・改修は、建物を長持ちさせるための投資です。
「今すぐ大工事」ではなくても、点検→必要箇所の補修→適切な時期の再塗装という順番で進めれば、雨漏り・高額修理・資産価値の低下を避けられます。
気になる症状がある方、前回の工事から年数が経っている方は、今回ご紹介した各助成金を活用し、長く住み続けられる家づくりをして頂ければと思います。
本記事は2025年10月時点の情報に基づいています。 最新の制度内容や申請手続きについては、各区のホームページをご確認下さい。

