東京都中央区と聞くと、銀座、日本橋、築地など、経済と文化の中心地という印象を持つ方が多いでしょう。しかし、昼間人口が夜間人口の約10倍に達する中央区では、単なる治安維持を超えた「都市型防犯」の必要性が高まっています。それは「防ぐための対策」ではなく、「地域価値を守るための戦略」になりつつあります。なぜなら現代の防犯は、単なる治安対策ではなく、
・高齢者の詐欺
・訪問販売被害の防止
・子どもの安全な登下校ルートの確保
・外国人居住者や観光客との共存
・認知症の方、障がい者の徘徊対策
など、福祉・教育・観光と連動した「暮らしの守り」へと進化しているからです。防犯対策が行き届いた地域は、不動産価値が維持されやすく、商業地ではテナント継続率が上がり、住民の定着率が高くなる傾向にあります。中央区のようにオフィス・住宅・商業の混在地域では、地域ブランド=安全ブランド構築のため、防犯施策は行政だけでなく、地域主体が積極的に取り組むべきものです。
ただ、その必要性は分かっていても具体的に何をすれば良いのか、費用はどれくらいかかるか分からない場合も多いと思われます。本稿では、東京都中央区で活用できる防犯対策の制度を、対象者、対象経費、助成率・上限といった視点から整理し、どうすれば効果的に組み合わせより高い効果を得られるか、具体的な申請手順・事例・注意点を交えて解説します。

カノーゲル行政書士・社会保険労務士事務所
代表 行政書士・社会保険労務士
大谷 真美
松戸、虎ノ門、麻布十番の弁護士・行政書士事務所で合計15年勤務後
2020年9月に独立、補助金申請に特化したカノーゲル行政書士事務所開設
2023年11月、カノーゲル社会保険労務士事務所開設
これまで補助金・助成金をサポートした会社は300社以上
東京都中央区の防犯対策助成の全体像

中央区の防犯関連助成は、大きく次の3層構造になっています。
①個別住宅型
対象:区民個人
内容:「防犯機器購入費用助成」「自動通話録音機の無料貸出し」「住まいの防犯対策助成」など
②地域インフラ型
対象:町会・商店会・自治会などの団体
内容:「パトロール用具等の給付」「防犯カメラ・防犯灯・私道整備」など
③人的支援型
内容:出前相談・防犯アドバイザー派遣・被害者支援などのソフト系支援など
この3層をうまく組み合わせることで、たとえば「商店街通り+マンション敷地+個人宅」を面的にカバーし、地域全体の安全レベルを底上げできます。
具体的助成制度

東京都中央区の防犯対策助成は10の制度が用意されています。その中で主な制度を3つご紹介致します。
(1)令和7年度個人宅向け防犯機器等購入費用助成
①対象者
・現に区内に住所を有する方
・住民基本台帳または外国人登録原票に登録されている世帯の世帯主またはこれに準ずる方
・居住している住宅に防犯機器を設置
賃貸住宅の場合、所有者や管理組合の同意書が必要です。所有者確認を忘れないようにしましょう。
②対象となる防犯機器
・家庭用防犯カメラ
・カメラ付きインターホン
・防犯フィルム
・センサーライト
・センサーアラーム
・錠・補助錠など
・その他侵入窃盗被害の防止に有効な機器・設備
その他の機器は要確認です。購入前に区に補助対象か確認しておくことで、購入後に「対象外でした」というリスクを避けられます。
③補助率、上限
・上限3万円、対象経費の4分の3を助成
・千円未満の端数は切り捨て
・ポイント利用・金券・商品券支払い分は対象外
・リース・レンタル取得分は対象外
④必要書類
・申請者本人の住所が確認できる本人確認書類の写し
・防犯機器の購入日・支払金額・機器名・申請者氏名が記載された領収書の写し
・機器内容が分かるパンフレット・カタログ等の写し
・機器設置後の写真(※カメラ付き機器の場合、撮影している画角がわかる写真も)
・通帳またはキャッシュカードの写し(口座番号確認用)
・所有者や管理組合等の同意書(共同住宅・賃貸物件の場合に限る)
特に「設置後写真」「画角がわかる写真」「カタログ」は抜けやすいため、忘れずに撮影・保管をしておきましょう。
④申請期間、申請方法
令和7年8月1日(金曜日)から令和8年2月27日(金曜日)までです。
申請は電子申請・郵送・窓口で受け付けがあり、郵送の場合は当日消印有効です。
⑤注意事項
・事前申請ではなく、機器購入→設置→写真撮影→申請という流れです。購入したいものが対象機器なのかどうか、申請前の確認が重要です。
・共同住宅・賃貸物件の場合、所有者や管理組合等の同意書が必要です。賃貸契 約者・入居者が申請する場合、契約書・管理者連絡・同意確認を早めに行いましょう。
・「予算額に達した時点で今年度分を終了」と明記されています。年度早期に申請枠が埋まる可能性があるため、できる限り早めに申請して下さい。
参照URL:令和7年度個人宅向け防犯機器等購入費用助成|東京都中央区
(2)防犯設備整備費助成(区単独事業)
中央区独自の助成制度として最も助成額が大きいのが、防犯カメラやセンサーライト等の設置を支援する「防犯設備整備費助成(区単独事業)」です。町会・自治会・商店会・マンション管理組合が対象で、区が費用の一部を負担します。
①対象団体
・区の「防犯アドバイザー派遣」を受けた商店会、町会・自治会、マンション管理組合等
助成金を受けてから7年経過後の翌年度以降に再申請可能となります。申請を検討している団体は、前年8月末までに必ず区への事前相談が必要です。
②対象設備
・防犯カメラ(モニター・録音装置等を含む)
・センサー付きライト等
区が派遣する防犯アドバイザーが防犯上必要と認める設備に限ります。また、特定の区域において不特定多数の者のために設置されるもので、分譲マンションでは共用部分のみ対象です。
③対象経費
・設備購入および取付費
・既設設備の取替(更新)に係る経費
リース・レンタルの場合は、初年度3月末までに支払った経費に限り対象です。保守費・修繕費・電気代等の維持管理費は対象外です。
④助成金額
| 対象団体 | 主体 | 区の負担割合 | 上限額 |
|---|---|---|---|
| 町会・自治会 | 住民団体 | 3分の2 | 200万円 |
| 商店会(町会等と協力) | 事業者団体 | 3分の2 | 600万円 |
| マンション管理組合等 | 建物所有者団体 | 2分の1 | 50万円 |
対象団体ごとにまとめると上記のようになります。防犯助成では、「町会・自治会+商店会」連携型が最も助成率・上限額が高いです。中央区に限らず、東京都内の防犯助成制度では「町会・自治会+商店会の連携型」が最も優遇されています。この2つが連携すると、「生活圏+通行圏+商業圏」全体をカバーできるため、犯罪抑止の効果が格段に高まるためです。
⑤注意事項
・対象となるのは固定設置型の防犯カメラ、録画機器、センサーライトなど。
・施工前申請が必須であること。着工後の申請は対象外になります。
・管理基準の整備を実施すること。設置後には、撮影範囲・録画保存期間・閲覧権限・責任者を明記した運用ルールを定め、住民や利用者に明示することが義務づけられています。
参照URL:防犯整備費助成|東京都中央区
(3)共同住宅等生活安全(防犯)アドバイザー派遣
①派遣対象
・町会・自治会、PTA
・商店会
・分譲マンション管理組合
・共同賃貸住宅居住者の集会等
②実施内容
・防犯アドバイザーが現地訪問し、近隣住宅関係犯罪の発生状況調査、現状聴取、防犯対策助言等を行う。
・1回あたり約2時間、2名体制での派遣が基本。
③申込方法
・代表者が防災危機管理課へ申込。申込日から2週間以上先の日を希望。
・利用者負担なし(無料)です。
④注意事項
・前述の「防犯設備整備費助成(区単独事業)」など他の防災助成を申請する前提条件です。
本制度の意義は、単に専門家を派遣するというより、「地域の安全意識と実効性のある防犯環境づくり」を住民主体で進めることにあります。特に、分譲マンションや賃貸集合住宅では、防犯カメラや照明設置位置の判断が難しいため、専門家の助言が直接的な効果を生みます。
中央区は「ハード整備(助成)」と「ソフト支援(アドバイザー派遣)」を組み合わせることで、補助金の実効性を高め、地域の防犯文化を育てることを狙っています。
参考URL:共同住宅生活安全アドバイザー派遣|東京都中央区
(4)他制度
(1)~(3)で個別住宅型、地域インフラ型、人的支援型の代表制度をご紹介しましたが、中央区には他にも下記の表の通り、数多くの防災助成があります。
| 制度名 | 対象者/団体 | 主な対象機器・内容 | 助成・給付内容/上限 | 主な特徴・備考 | 公式URL |
|---|---|---|---|---|---|
| 自動通話録音機の無料貸出し | 65歳以上の区民が居住する世帯 | 自動通話録音機(固定電話対応) | 無料貸出(電気代は自己負担) | 迷惑電話・詐欺対策。既設機器がある場合は対象外。設置可能環境の制限あり。 | https://www.city.chuo.lg.jp/a0010/bousaianzen/bouhan/service/jidoutuuwarokuonki.html |
| パトロール用具等の給付 | 区内の町会・自治会・商店会・PTAなど | パトロール帽、ベスト、ライト、笛など | 年1回、上限10万円(税込) | 地域防犯活動を行う団体支援。名簿と活動計画書の提出が必要。 | https://www.city.chuo.lg.jp/a0010/bousaianzen/bouhan/service/20131224093927981.html |
| 安全・安心おまかせ出前相談 | 個人宅・町会・商店会・管理組合など | 防犯設備士による現地診断・助言 | 無料派遣(助成ではなく相談支援) | 防犯対策の初期段階に最適。機器選定・助成前相談に利用。 | https://www.city.chuo.lg.jp/a0010/bousaianzen/bouhan/service/demaesoudanninituite.html |
| 住まいの防犯対策助成 | 区内在住者(出前相談を受けた方) | 錠前交換、防犯フィルム、センサーライトなど | 経費の1/2、上限1万円 | 出前相談の受講が必須条件。1住宅1回限り。写真提出・領収書添付要。 | https://www.city.chuo.lg.jp/a0010/bousaianzen/bouhan/service/sumainobouhanntaisakuzyosei.html |
| 防犯設備整備費助成(都との連携事業) | 「安全・安心まちづくり推進地区」内の町会・商店会等 | 防犯カメラ、防犯灯、車止めなど | 都3/4・区5/24・団体1/24、上限575万円(連携時862万円) | 都区共同事業。面的防犯推進が目的。事前相談と8月末締切必須。 | https://www.city.chuo.lg.jp/a0010/bousaianzen/bouhan/service/bouhansetsubitorenkei.html |
| 私道・防犯灯の整備助成制度 | 私道の所有者・借地権者 | 私道の舗装・排水・防犯灯の設置・更新 | 幅員・構造により区負担率変動(例:幅1.2m以上で区100%) | 区が工事受託し実施。承諾書が必要。公道連絡条件あり。 | https://www.city.chuo.lg.jp/a0037/bousaianzen/bouhan/service/sidobohantonoseibizyoseiseido.html |
| 犯罪被害者支援制度 | 区民(犯罪被害を受けた方) | 行政手続き支援、法律相談、カウンセリング紹介 | 無料支援サービス | 金銭的助成ではなく、精神的・法的サポートを提供。被害届後利用可。 | https://www.city.chuo.lg.jp/a0010/bousaianzen/bouhan/service/hanzaihigaishashien.html |
制度の「重ね技」で助成額を最大化

単体の助成では、
・個人宅:玄関まわりの安全
・管理組合:共用部の安全
・町会・商店会:通り全体の安全
と、対象範囲がバラバラになりがちです。これらを重ねて使うことで、「家→建物→街区→通り」まで防犯効果が連続する「面的防犯」へと進化します。
事例1:マンション管理組合が共用部に防犯カメラを設置しつつ、外周部を町会枠で補完。それぞれ別の費目として区分することで、合計助成額が上限を超えずに併用可能。
事例2:商店会とPTAが連携し、通学路にカメラを設置。都連携助成(862万円上限)を活用し、夜間照明も併設。
事例3:高齢者宅で出前相談を受け、防犯フィルム+録音機を導入。
一度に全制度を理解するのは大変ですが、「個人助成 → 団体助成 → 都区連携助成」の順にステップアップする形で考えると、無理なく最大限の支援を受けられます。自分達で進めるのが難しい場合は、助成制度に精通した工事会社に依頼することで、申請をスムーズに進めることが出来ます。見積を取得する際には、助成制度活用の実績を確認するようにしましょう。
防犯助成制度を利用する際の注意点

(1) 申請は「工事・購入前」か「工事・購入後」なのか
制度によって、申請のタイミングが事業実施前なのか後なのか、時期が分かれます。多くの助成では、工事や機器購入の前に申請・交付決定を受ける必要があります。その場合、施工や支払いを済ませた後では助成対象外となる場合があるため、見積段階で早めに区の防災危機管理課へ相談しましょう。
(2)年度予算枠・受付期間に注意
助成制度は年度ごとの予算で運用され、予算額に達し次第終了します。特に春~夏の早期申請が有利です。複数制度を組み合わせる場合も、申請締切が異なるためスケジュール管理が重要です。
(3)書類・証明資料の精度
領収書・設置写真・設置位置図などの提出が必要です。写真は「設置前後が一目で分かる構図」が求められるため、施工業者と連携して記録を残しておくと安心です。支払方法も現金・振込に限られ、ポイント・クーポン利用は対象外です。
(4)団体・管理組合では「同意書」必須
マンション管理組合や賃貸住宅の場合、所有者・区分所有者全員の同意が必要になることがあります。特に共用部のカメラ・照明設置では、総会決議や議事録添付が求められます。用意するのに時間がかかることも多いので、早めの計画が必要です。
中央区の防犯助成は、「事前相談・適正申請・継続管理」が三本柱です。早めに計画し、対象要件を満たす施工・書類準備を行うことで、助成金を確実に受け取ることができます。
まとめ
中央区の防犯助成制度は、防犯対策の支援を通じて「安全」と「資産価値」を同時に高める仕組みです。防犯カメラや照明の整備は犯罪抑止だけでなく、建物管理や街の美観を示す指標にもなり、住宅や店舗の信頼性・地価を維持する効果があります。
とくに中央区のように商業・居住・観光が混在する地域では、「安全で明るい街」という印象が、投資・移住意欲を高める重要なブランド価値となります。
ぜひ、区単独・都連携・個人向けの制度を重ねて活用して頂き、皆さまの住宅、そしてお住まいの地域の「安全」と「資産価値」を高めていきましょう。
本記事は2025年11月時点の情報に基づいています。 最新の制度内容や申請手続きについては、自治体のホームページをご確認下さい。

