東京都中央区は、都心にありながら、住宅やマンション、事業用の建物が数多く集まるエリアです。その一方で、昭和56年以前に建てられた、いわゆる「旧耐震基準」の建物も今なお多く残っています。
こうした状況の背景には、中央区が江戸時代から商業や流通の中心地として発展してきた歴史があります。戦後の復興期を経て高度経済成長期に入ると、都市機能の回復と拡大に伴い、建物の建設が一気に進みました。特に昭和30年代から50年代にかけては、事業用ビルや共同住宅、店舗併用住宅、小規模な工場や倉庫などが短期間に数多く建てられ、現在の街並みの基礎がつくられています。
この時期に建てられた建物の多くは、当時の技術や法律を前提とした構造で、現在の耐震基準とは異なる点が特徴です。そのため中央区では、さまざまな用途の建物が密集・混在しながら、同じ時代に建てられた建物が多く残る、全国的にも特徴的な街並みとなっています。
大地震のリスクがたびたび指摘される中で、「もし今、大きな地震が起きたら、この建物は大丈夫だろうか」と不安を感じている方も多いのではないでしょうか。中央区では、こうした不安を少しでも和らげ、安全で安心して暮らせるまちづくりを進めるため、建築物の耐震化を支援するさまざまな助成制度を用意しています
本コラムでは、制度の基本的な内容に加え、実際に助成金を活用して工事を行う具体例も交えながら、個人の方や管理組合、中小企業の方が「次に何をすればよいか」をイメージしやすい形でご紹介していきます。

カノーゲル行政書士・社会保険労務士事務所
代表 行政書士・社会保険労務士
大谷 真美
松戸、虎ノ門、麻布十番の弁護士・行政書士事務所で合計15年勤務後
2020年9月に独立、補助金申請に特化したカノーゲル行政書士事務所開設
2023年11月、カノーゲル社会保険労務士事務所開設
これまで補助金・助成金をサポートした会社は300社以上
1 中央区「建築物の耐震助成制度」の概要

さっそく中央区が実施している耐震助成制度の概要をみてきましょう。
①対象となる方
・区内の建築物の所有者又は賃借人
・マンション等の管理組合
・区内に建物を所有する中小企業
②木造建築物助成制度
【事前相談】
まずは中央区に相談します。区の職員が現地に行き、建築物が助成対象になるか確認します。
【簡易耐震診断】(無料)
区の職員が耐震性の目安を診断します。建物の外観と1階部分の壁の配置等をもとに、大まかな耐震性を割り出します。
※申込みのないお宅に区の職員が伺うことはありません。不審な訪問には気を付けましょう。
【耐震診断・補強計画・補強工事】
耐震の専門業者が、詳しい耐震診断及び補強計画を作成します。その結果「倒壊する危険性がある」と判定された建築物の耐震補強工事に対して、工事費について助成が出ます。助成率と金額は下記の通りです。
特に注目すべき点は、耐震診断・補強設計は原則「全額助成」となっている点です。
「まずは調べてみる」段階で、費用負担がほとんどないため、非常に利用しやすい制度といえます。
また住宅の場合、高齢者や障がい者がいると助成率が優遇され、限度額までの工事費用全額が助成されます。

(参考:東京都中央区ホームページ)
補強工事といっても具体的なイメージがすぐには思いつかないかもしれませんが、木造建築物の場合、柱や梁、筋交いといった構造部材の補強や、耐力壁の追加、接合金物の設置など、建物全体の「粘り強さ」を高める工事が中心となります。また、重い瓦屋根を軽量な屋根材に替えるなど、建物の重量を減らす工事も有効です。専門業者による補強計画に則って実施していきます。

(参考:東京都中央区ホームページ)
③木造以外の建築物の助成制度
【事前相談】
まずは中央区に相談します。区の職員が現地に行き、建築物が助成対象になるか確認します。
【耐震診断・補強計画・補強工事】
耐震の専門業者による耐震診断、その結果「倒壊する危険性がある」と判定された建築物の補強設計、補強工事に対して助成が出ます。助成率と金額は下記の通りです。

(参考:東京都中央区ホームページ)
木造以外の建築物では、壁や柱の補強、鉄骨ブレースの設置、コンクリートの増し打ちなど、「構造体そのもの」を強化する工事が主となります。建物の構造に応じた適切な工事を行うことが、安全性向上と助成制度の有効活用につながります。

(参考:東京都中央区ホームページ)
2 「耐震対策」と「改修工事」は同時に実施できるのか

耐震対策というと、「大掛かりで高額」「今すぐやらなくても困らない」と思われがちです。しかし実際には、
・屋根の劣化や雨漏り
・外壁のひび割れ
・防水性能の低下
・鉄部の腐食
といった日常的な不具合が、耐震性能の低下と密接に関係しているケースも多く見られます。
特に屋根は、
・重量が建物全体の耐震性に大きく影響する
・劣化による雨水侵入が構造部を弱らせる
という点で、耐震対策と非常に相性の良い工事箇所です。
耐震助成制度は本来「耐震」に直接関係する工事のみが対象ですが、中央区では併用できる諸制度があります。これらは「安全性向上を目的とした改修工事」を後押しする仕組みとなっており、単なる修繕ではなく「耐震性向上の一環」として位置付けることで、助成金活用の可能性が広がります。
3 実際にどのように活用できるのか具体例

個人と管理組合、2つのケースで考えてみます。
具体例① 個人:戸建住宅で「耐震改修+屋根修理」を助成金で実施したケース
・ 建物概要:中央区内、木造2階建て、昭和54年築、個人所有、自宅
築年数が経過し、屋根のズレや雨漏りが目立ち始めていましたが、「全面改修は高そう」という理由で先送りにされていました。
・助成金活用の流れ
区へ耐震相談 →工事会社同席で現地確認 →耐震診断(全額助成) →補強設計(全額助成)→診断の結果、屋根の重量軽減が耐震性向上に有効と判断されました。
・実施工事
耐力壁補強、筋交い追加、瓦屋根 → 軽量金属屋根へ葺き替え、防水・雨漏り補修
・費用と助成
耐震診断:15万円→全額助成
補強計画作成:25万円→全額助成
耐震補強工事:250万円→助成率2分の1=125万円助成
防水・雨漏り補修:120万円→助成率2分の1・上限50万円=50万円助成
費用合計:410万円
助成金:215万円
自己負担:195万円
助成金を活用しなければ「費用面で断念していた工事」が実施できます。
・ポイント
耐震助成制度自体は、基本的に「耐震」に対する支援であり、単独の防水工事や雨漏り補修は対象になりません。しかし、中央区には「住宅耐震併行工事助成制度」という制度があり、耐震補強工事と同時に行う改修工事(併行工事)に対しても助成が出る仕組みがあります。これにより、耐震補強と一体で行う防水・屋根改修・雨漏り補修などの工事費の一部が助成対象となる可能性があります(併行工事として認められる条件あり)。

参考URL: chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.city.chuo.lg.jp/documents/5213/heikokouji_jyosei_reaflet.pdf
このケースでは、工事施工会社が助成金制度を理解し耐震工事と一体提案したことが、助成金額アップにつながった大きな要因です。
具体例② 管理組合:分譲マンションで耐震診断+共用部分改修を行ったケース
・マンション概要:中央区、RC造8階建・40戸、昭和55年築、管理組合で自主管理
大規模修繕の検討時に、「耐震性も一度きちんと確認したい」という声が理事会で上がりました。
・実施工事
耐震補強工事、屋上防水工事、外壁補修・シーリング更新、鉄部塗装
・費用と助成
耐震診断:90万円→助成率3分の2=60万円助成
補強設計:60万円→助成率3分の2=40万円助成
耐震補強工事:300万円→助成率2の1=150万円助成
屋上防水工事:600万円→助成率10%の3分の2=40万円助成
外壁補修・シーリング更新:600万円→助成率10%の3分の2=40万円助成
鉄部塗装:210万円→助成率10%の3分の2=14万円助成
総工事費:1,860万円
助成金:344万円
自己負担:1,516万円
1戸あたり負担軽減:約9万円相当
助成金を使うことで、区分所有者の合意形成を非常にスムーズに進めることができます。
・ポイント
このケースでは、耐震助成制度と一般財団法人中央区都市整備公社の「分譲マンション共用部分改修費用助成」を併用しました。こちらは耐震助成制度とは別の助成制度ですが、防水工事・雨漏り補修につながる改修工事の助成枠として活用できます。制度を併用することで、大規模修繕の自己負担を引き下げることが可能となります。
参考URL: https://www.chuoku-toshiseibikosha.or.jp/support/kyouyo_josei.html
4 助成金を使う前に知っておくべき重要ポイント

助成金活用で最も多い失敗は、「工事を先に進めてしまい、助成対象外になる」ことです。
中央区の耐震助成制度では、
・事前相談
・申請
・交付決定
すべてが完了してから工事着手する必要があります。
このため、
・早い段階で工事会社に相談すること
・助成金を前提にした工事計画を立てること
が極めて重要になります。
また、耐震工事を考える時期は、おそらく他にも建物の不具合が色々発生していると考えられます。その際には他の制度との併用が必要となってきますが、そのためには制度に精通している事業者に依頼することが必須です。
工事会社が単なる施工業者ではなく、
・助成制度の説明役
・行政との橋渡し
・書類やスケジュール管理の支援
といった伴走型の役割を果たしてくれるかも、見積依頼の段階でしっかり確認しておきましょう。
まとめ
助成金は「知っている人だけが得をする制度」です。
中央区の令和7年度の申請受付は終了しましたが、令和8年度の受付開始が令和8年4月(予定)と発表されています。
助成金は年度ごとに予算が決まっていますので、ある意味「早い者勝ち」です。そこで重要なのは、工事内容と制度を正しく整理し、着工前に事前相談・申請を行うことです。助成制度を理解した工事会社や行政書士などの専門家と連携することで、安全性の向上と費用負担の軽減を同時に実現する、納得感のある改修が可能になります。
耐震工事、屋根修理・外壁改修・防水工事などを検討している今こそが、助成金活用の好機です。耐震診断や制度相談は、工事を検討し始めた「最初の一歩」で行うことが成功の鍵となります。これらの助成金を上手に活用し、安心で価値ある建物づくりを進めていきましょう。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
本記事は2026年1月時点の情報に基づいています。
最新の制度内容や申請手続きについては、自治体のホームページをご確認下さい。

