子どもが健やかに育つ住環境を整えることは、すべての家庭にとって大切な課題です。しかし、家庭内の事故は外出中のそれよりも多いと言われています。特に小さな子どもは、室内でも自由に動き回ります。好奇心が旺盛で予測不能な行動をとる一方で、危険を察知する能力が未熟なため事故に繋がりやすいのです。消費者庁や消防庁の統計でも、子どもの事故の発生場所は「自宅」が最も多いという結果が出ています。
そのため、転落、落下、転倒、衝突、挟まれ、やけどといった事故を予防する工夫が求められます。この記事では、子育て世帯が安心・快適に暮らすために活用できる住宅改修補助制度について、詳しくご紹介します。

カノーゲル行政書士・社会保険労務士事務所
代表 行政書士・社会保険労務士
大谷 真美
松戸、虎ノ門、麻布十番の弁護士・行政書士事務所で合計15年勤務後
2020年9月に独立、補助金申請に特化したカノーゲル行政書士事務所開設
2023年11月、カノーゲル社会保険労務士事務所開設
これまで補助金・助成金をサポートした会社は300社以上
国や地方自治体が積極的に補助する背景

近年、少子化の進行と同時に、子育てにかかる経済的負担(住宅費、生活費、教育費など)の重さが社会問題化しています。特に都市部では住宅価格が高騰しており、「持ち家の取得やリフォーム」が子育て世帯にとって難しくなってきています。
そのため国や自治体は、「住宅費支援=子育て支援」と位置づけ、住宅リフォームを通じて子育てしやすい住環境を整える支援に力を入れています。
特に地方自治体では、人口減対策として「子育て世帯の定住支援」に力を入れています。リフォーム補助金を設けることで、
・空き家の活用促進
・若年世帯の移住・定住支援
・地域の高齢化・少子化対策
などを同時に進められるため、自治体ごとの独自の補助制度が年々増加しているのです。
このように、社会・政策・経済の複合的なニーズと課題解決の手段として、「子育て世帯向けリフォーム補助金」は多方面での効果が期待されています。
活用したい補助制度

改修には費用がかかるものですが、国や自治体では「子育て世帯」を対象とした補助制度を数多く用意しており、賢く活用すれば経済的負担を大きく軽減することが可能です。
代表的な制度を3つご紹介します。
(1)子育て支援型共同住宅推進事業(国土交通省)
本制度は、賃貸住宅オーナーやマンション管理組合向けで、賃貸住宅や分譲マンションなど「共同住宅」において、子どもの安全・安心な暮らしおよび子育て世帯の住環境改善や居住者間の交流促進を目的とした住宅の「新築または改修」に対し、国が補助金を交付するものです。
賃貸住宅オーナーやマンション管理組合にとっては、こうした「子育て支援住宅」としての付加価値を持つことで、物件の魅力を高め入居促進に繋げることができ、子育て世帯が安心して暮らせる住宅づくりを後押しする仕組みとなっています。
①補助の対象と内容
この事業が支援する取り組みは大きく次の2種類です
■子どもの安全確保に資する設備の設置
住宅内で起こりうる子どもの事故や転落、防犯リスクを低減するための下記のような設備改修が対象です。
・転落防止用の手すりの設置
・窓や玄関ドアの補助錠
・防犯性の高いサッシ・ドアの導入
・チャイルドフェンスの設置
・浴室扉への外鍵の設置
・室内での衝突防止のための面取り加工
また、既存の共同住宅では、子育て世帯の入居率が3割以上であれば、宅配ボックスの設置も補助対象となる場合があります。これにより、不在時の荷物受け取りと防犯・利便性の向上を図ることができます。
補助額の目安は、以下の通りです。
・新築:補助対象事業費の 1/10
・改修:補助対象事業費の 1/3(上限 100万円/戸)
■居住者等による交流を促す施設の設置
子育て期の親子同士、あるいは居住者間の交流を促すための共用施設整備も対象です。例えば
・キッズルームや集会室、多目的室
・プレイロット(遊具・水遊び場・砂場など)
・交流用ベンチ、家庭菜園スペースなど
こうした施設を整備することで、子育て世帯同士のネットワーク形成や、地域とのつながりを強化する「子育てにやさしい住宅環境」を促進します。
補助額の目安は、以下の通りです。
・新築:補助対象事業費の 1/10
・改修:補助対象事業費の 1/3(上限 500万円/棟)
②適用対象となる住宅の条件
この制度の対象となる住宅、および適用条件には以下のようなものがあります。
・対象は 賃貸集合住宅(賃貸アパート・マンション)、あるいは分譲マンション。新築だけでなく、既存住宅の改修も含まれます。改修を行う場合、棟単位での申請・条件クリアが必要です。
・住宅は新耐震基準および省エネ基準に適合している必要があるケースが多く、特に賃貸住宅の新築ではこれらの要件を満たす必要があります。
・住戸専有面積の下限や、一定戸数(例:5戸以上)で安全設備を設置することなど、補助のための最低条件が定められることがあります。
参考URL: https://kosodate-sc.jp/
(2)子育てグリーン住宅支援事業(国土交通省、環境省)
本事業は、子育て×省エネを掛け合わせた制度で、住宅の新築やリフォームを対象に、省エネ・高断熱性能を備えた住宅の普及や既存住宅の省エネ改修を支援する制度です。
①補助対象
対象となるのは、注文住宅の新築、新築分譲住宅の購入、賃貸住宅の新築、そして既存住宅のリフォーム。工事の種類によって、個人、法人、管理組合と対象者が異なります。
例えば、注文住宅の新築の場合、「GX志向型住宅」だとすべての世帯が対象ですが、「長期優良住宅」「ZEH水準住宅」だと18歳未満の子を有する子育て世帯、もしくは夫婦いずれかが38歳以下の若者夫婦世帯いずれかが対象です。
②補助額の目安
新築だと下記の通りです。
・GX志向型住宅:最大160万円/戸
・長期優良住宅:最大80万円/戸
・ZEH水準住宅:最大40万円/戸
既存住宅のリフォームでは、省エネ改修や断熱、給湯設備更新などを対象に補助があり、条件を満たせば補助を受けられます。
参考URL: https://kosodate-green.mlit.go.jp/
(3)子育て世帯向け補助事業(「子供を守る」住宅確保促進事業)(東京都)
この制度は、東京都が実施する、マンションに住む子育て世帯を対象にした住宅改修の補助制度です。子どもの安全性を高めるための改修工事を支援し、子育てに適した住環境を選びやすくすることを目的としています。
対象は、おおむね小学生以下の子どもがいる世帯など、子育て世帯を前提としたマンション居住者です。子どもの転落やけが、ドアの指はさみ、ベランダからの転落などを防ぐための安全対策工事にかかる費用の一部をカバーします。
① 補助対象工事の具体例
補助の対象となる改修には、以下のような「子どもの安全確保」にかかわる工事が含まれます。
・チャイルドフェンスの設置
・転落防止のための手すり設置
・ドアの指はさみ防止対策(子どもが指を挟まないようなドア等)
・バルコニーに面する窓への補助錠設置・防犯フィルム貼付
・その他、防犯・安全対策に資する改修全般
これらの改修は、子どものいる住まいで事故を未然に防ぎ、安全性を高める目的で設計されています。
②補助内容・補助条件
この制度の特徴は以下のとおりです。
・補助率は2/3、補助の上限額は1戸あたり30万円。
・工事の種類は、安全対策・防犯対策に限定されており、「子どもの安全確保」が目的であることが条件。
参考URL: https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/kosodate/child-protect-jigyo
利用にあたっての留意点

制度を利用する際は、以下のような点に注意する必要があります。補助金は非常に有用ですが、ルールや条件を満たさないと無効になるリスクもあるため、慎重な確認が必要です。
①事前申請が原則
ほとんどの補助制度では、「工事着工前」に申請し、交付決定通知を受けてから工事を開始することが求められます。工事を先に始めてしまうと、補助の対象外となるケースが多いため注意が必要です。
②対象となる工事内容の確認
補助金が使えるのは、「安全対策」「省エネ」「バリアフリー」など制度で定められた工事内容に限られます。たとえば「壁紙の張り替え」や「家具の入れ替え」など、美観目的だけの改修は対象外になることが多いです。
③補助金対象業者の選定
多くの制度では、「登録事業者」や「認定施工業者」でないと申請できません。信頼できる事業者に依頼し、制度に対応した工事実績のある業者を選ぶことが大切です。
④自治体によって制度内容・条件が異なる
リフォーム補助制度は自治体ごとに内容が大きく異なります。同じ東京都内でも区によって補助額や対象工事が違う場合があります。まずは必ず「お住まいの市区町村」の公式サイトや窓口で最新情報を確認しましょう。
⑤年度ごとの予算枠と受付期間に注意
補助制度には「年度予算」があるため、申請が早期終了することもあります。今回ご紹介した3つの制度も、枠や対象者によっては終了しています。また、制度そのものが毎年度ごとに見直されることもあるため、「昨年使えたから今年もOK」とは限りません。
制度の多くは4月に新しく発表されます。年度始めが一番予算が潤沢で選択肢も多いので、制度の利用を考える場合は、ぜひ4月に国や自治体のホームページをチェックして頂きたいです。
⑥他の補助制度との併用可否を確認
複数の制度を同時に使えそうな場合でも、「併用不可」のケースがあります。国の補助金と自治体の補助金を併用する際は、必ず事前に窓口へ相談しましょう。自分で調べるのが難しい場合は、補助金実績の豊富な施工事業者に依頼するのが良いと思われます。
まとめ
住まいは、家族全員が日々の生活を送る基盤であり、子どもの健やかな成長を支える最も重要な環境です。単なる修繕ではなく「未来への投資」として住宅改修を捉え、制度を上手に活用することで、経済的負担を抑えながら高品質な暮らしを実現できます。
特に、子育てにかかる支出が多くなる中で、補助金や助成制度を活用した改修は、家計の負担軽減にもつながります。
これから住まいを見直そうと考えている方は、ぜひこの機会に、制度を活用した「安全・快適な住まいづくり」に取り組んでみてはいかがでしょうか。
本記事は2025年12月時点の情報に基づいています。最新の制度内容や申請手続きについては、自治体のホームページをご確認下さい。

